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ワイアンドットの行政制度と教育制度
(筆者注:文中の訳語の中には、まだ日本語として確立していない言葉もありますので、その場合英語を並記しました)
文:渡辺賢二
I. 一般目的の地方政府(都市行政)と特殊目的の地方政府 (教育行政) (ここをクリック)
II. 一般目的の地方政府:都市行政 (ここをクリック)
1.「さまざまな市政府の制度」
2.「ワイアンドットの市長・市議会共同政体] (ワイアンドットの行政組織図)
3.「ワイアンドット市長のふたつの顔」
4.「市長の職務と職責」
5.「市議会と議員」
6.「委員会」
7.「その他の選挙で選ばれる公務員」
a.「財務官」
b.「税務査定官」
c.「事務官」
d.「第27地区判事」
8. 「ワイアンドットの地区裁判制度」
a.「訴訟の国アメリカ」
b.「民事的結婚式」
c.「その他の地区裁判所の役割」
d.「ミシガン州の警察制度」
e.「ワイアンドット市警察」
III. 特殊目的の地方政府: 教育行政府 (ここをクリック)
1. アメリカの教育行政の特徴
a. 「学校教育の目的」
b. 「歴史的な背景」
c. 「教育の地方分権(Decentralized Education)」
d. 「教育制度を支える理念」
2. ミシガン州の教育制度
3. ワイアンドット学校区とその独立性
4. ワイアンドット教育委員会
5. ワイアンドット公立学校局と教育長の職務
6. 学校税
7. ワイアンドットの公立学校
■教頭、校長、教育委員長、教育長の資格
■学区制
■学年制
■複合年齢編成クラス
■補習教育
■ウィルソン中学校とル−ズベルト高校
■学級内習熟度グル−プ指導
■習熟度別指導
■バイリンガル教育とESL教育
バイリンガル教育
バイリンガル教育の指導法
ESL教育
■コミュニティ−教育事業
VI. 私立学校 (ここをクリック)
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I. 一般目的の地方政府(都市行政)と特殊目的の地方政府(教育行政)
アメリカの政治形態は連邦政府と州政府の二重構造になっているため、日本人にとってそれを理解する事は随分やっかいなものです。しかしワイアンドットを良く理解する上でアメリカの地方行政、特に都市行政組織の独特な特徴を知る事が不可欠だと思います。そこで、その最も特徴的な地方政府という概念からから見て行きましょう。
ワイアンドットにはアメリカの他の多くの都市と同様、日本では見る事の出来ないふたつの地方政府の形態があります。ひとつは「一般目的の地方政府」、もうひとつは「特殊目的の地方政府」と呼ばれるものです。これら2種類の地方政府は他の多くのアメリカの都市で見られる様に、同一の都市に設置されていながらお互い干渉し合う事なく、まったく別の目的を持った独立した組織として市民の代表により運営されています。
もう少し詳しく説明すると、ひとつめの「一般目的の地方政府」は市政府(City Government) と呼ばれる日本の市役所に良く似た組織で、市長がトップになって運営している地方政府(地方自治体)です。もうひとつの「特殊目的の地方政府」は日本にはない制度で「公立学校区(School District) 」がそれにあたります。つまり公立の学校教育は市政府の管轄外で、学校税の徴収以外はまったくノ−タッチなのです。ワイアンドットでは(よその都市でも大体同じですが)市議会議員と同様に住民の選挙で選ばれた委員で構成されるワイアンドット教育委員会が、公立学校区に置かれて公的教育行政を監督、運営しています。(この事については後の「特殊目的の地方政府」のところで詳しく説明します。)そしてこれらのふたつの行政府は各々お互いに分離独立していて住民に対し別々に課税しますが、学校教育の運営の為の税の徴収は便宜上「一般目的の地方政府」、すなわち市政府(市役所)が一括して行なっています。
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II. 「一般目的の地方政府」(都市行政)
1. 「さまざまな市政府の制度」
それでは「一般目的の地方政府」についてもう少し詳しく見てみましょう。アメリカには現在いくつかの市政府の制度がみられます。まず日本と同様な制度、すなわち「市長は市議会としばしば拮抗し、強力な総括責任者として市の職員を率いて市制を運営して行く」と言う伝統的な制度があります。その他に「一人の市長に権限を集中させるのは危険である」と言う考えから「議会・シティ−マネ−ジャ−(City
Manager)制度」が最近徐々に増えて来ています。これは市議会に任命された地方自治の専門家である「シティ−マネ−ジャ−」が予算の編成や執行を一手に引き受け、市の(教育行政以外の一般)行政を運営していきます。
この場合市長は単に市の「顔」として式典や行事に出席するのが仕事になっています。ただこの制度は「市長が強いリ−ダ−シップを発揮してシティ−マネ−ジャ−とともに効率的で公正な行政運営が出来る」と言われる反面、しばしば「市会議員は互いに責任をなすりあい、シティ−マネ−ジャ−は議会の影でいてハッキリした責任を取らない」とか「馴れ合いで議会と行政によるアメリカ政治の伝統である『チェック・アンド・バランス(Checks
and Balances):立法、司法、行政の三権分立(Separation of Power)のための権力の抑制と均衡』が機能していない」と言う批判もあります。
2. 「ワイアンドットの市長・市議会共同政体]
ワイアンドットではこの「議会・シティ−マネ−ジャ−制度」と伝統的な「強い市長制度」の中間に位置する様な「市長・市議会共同政体
( the Mayor - Council Form of Government )」と言う制度が1925年以来住民投票によって採用されています。この制度は他の都市でも多く採用されていて特に珍しい訳ではありませんが、市議会では市長が議長を務めます。ついでに言えば、もうひとつワイアンドットで日本には無くアメリカの都市でやはり多く見られる制度に「市長プロテム
(mayor pro tem) 」と言うポストがあります。これは市長が不在の時に市長の代理を臨時に務めるポストで、市議選で最高得票を得た議員がこのポストにつきます。例えば市長が市議会に出られない時などに市長プロテムが市長の代わりに議長を務めます。そのためこのポストは副市長とも言えるのでは無いでしょうか。また市議会議員の定数は6名になっていおり、2001年4月の選挙については当会のニュ−スレタ−20号の「ワイアンドットの選挙結果」をご覧下さい。

3. 「ふたつの顔を持つワイアンドット市長」
ワイアンドット市の憲法とも言える「ワイアンドット市憲章」によると、市長の職務と職責にはふたつの「顔」とも言うべき立場あるいは資格が定められています。つまり市長は市の財政を健全に保ちながら、市民の健康と安全そして福祉について充分なサ−ビスを提供する責任があります。ところで(近隣の市長同様)ほとんどの場合ワイアンドット市長は本業を持っており、市長職をパ−トタイムで務めています。また市長の任期は奇数の年の4月の最初の月曜日におこなわれる一般選挙で選ばれ、その期間は市長が選ばれる時に住民投票で2年か4年かを一緒に決めます。
a. 市議会議長としての顔
まずそのひとつは議長としての顔です。民間企業に例えるなら市長は取締役会の会長や議長(Chair ) にあたり、市議会議員は取締役や執行役員などになります。つまり議会で市長は議員と拮抗すると言うより、むしろ市議会の議長として議員や職員と協力して様々な意志決定をおこなって行きます。そして時には市政全般についてのアドバイスしたり、また「市民にとってどれが一番利益になるか」について自分の考えを述べたりもします。ここが日本とは大きく違う点です。すなわち市長と市議会議員は議会で共同して住民からの要望(議会で直接その住民から聞く)、予算の配分、新しい設備の購入や建物の建築の決定、さらに市の条例や命令の採択などをおこなって行きます。もちろん市の関係部局長なども参加して会議(市議会)が行なわれます。
b. 市の最高行政責任者としての顔
市長にはこの「市議会の議長」と言う顔の他に、もう一つ「市の最高行政執行責任者(CEO:Chief Executive Officer)」としての顔も市憲章に規定されています。民間企業の
CEO ( 最高経営責任者 )と同じです。すなわち市長は日々の市の業務を執行する大きな責任と権限を持っおり、一方各部局長は自分の部局の管理運営について市長に責任を負います。そして市長は公益事業、警察、消防、リクリエ−ション事業などに責任を持つ各委員会の委員に市民を任命し、一方その委員はその事業の直属部局の責任を負います。さらに市長は市議会の承認を得てその他のコミッショナ−や委員長などを任命します。
4. [市長の職務と職責]
市長には様々な職務、職責あり、高度な能力が要求されます。まず市長はワイアンドットの代表として全米自治体協会、全米市長会、ミシガン州自治体連盟のメンバ−になっています。そしてもちろんワイアンドットの代表としてコミュニティ−の行事や市民的な行事にも参加をします。このほか市長は部局や市全体の問題について広範、かつ充分な知識を持って、ワイアンドットというコミュニティ−の将来の発展について計画をしなければなりません。そのため、これらの事柄について市長は、頻繁に部局長や関係市民と会ったり、委員会に出席したりします。つまり市長はCEO(市の最高行政責任者)としての高い能力を使って、市の健全な財務内容を保ちながら、コミュニティ−に充分なサ−ビスと市民の健康、安全、福祉などが提供する事に全力を注ぐ責任を持っています。
5. 「市議会と議員」
一方「市長・市議会共同政体」で市議会は民間企業に例えるなら取締役会でしょう。毎週月曜日の午後7時から全体委員会として開催されます。市長と同様に市議会議員もやはり昼は自分の職業を持っているので、仕事が終わった後が最適と言う理由からこの時間から開催されます。これは特定な人だけでなく、「誰もが政治に参加出来る機会を与えられる様に」と言う理由から決められ広く支持されています。ついでながら、市長を含めてこれらのポストは歴史的にボランテア−で務めるのが普通だったので、現在の彼等の報酬も年間約500ドルと低額です。これはほとんどボランテア−職で、中にはリチャ−ド・ケリ−の様に1998年に85才で現役のまま亡くなる迄、自分の議員報酬の全額を毎年高校生に奨学金として寄付していた人もいました。その他選挙で選ばれたポストの中で書記官、税務査定官、財務官の三人はフルタイムで務めます。先に述べた様に市議会は市長が議長を務めて開催されますが、そこでは日本で時々見られる様に市長と議会が拮抗する事はありません。基本的に市長は議長として議事次第に沿って審議し意志決定をして行きます。
市議会では市民からの苦情や陳情を直接当事者から公聴したり、各部局や委員会の責任者から報告や推薦を受けたりします。さらに請求書の支払を承認したり政策を決定したりします。市議会はこれらの事項をまず関係部局や委員会に付託し研究を委ね、その勧告を受けた後、過去の決議案や条例に照らして採択をします。市議会はまず書記官に市政運営に関わる政令や条例を用意する様指示して、それに照らしながら審議をします。こうして全体委員会の協議の後に毎週月曜日の定例市議会において決議案件や条例として採択されます。不定期に行なわれる特別議会は予算要求の審議や各部局の運営を検査する時に行なわれます。
予算委員会は予算についての予備的な作業をして、議会が予算を編成します。毎年新たに道路、駐車場、下水などの整備、資本改善事業、職員の賃上げなどいろいろな要求が市町や議会に出されますが、これらの予算準備作業は市にとって極めて重要な業務になります。議会は予算編成の際、絶えず増え続けるこれらの費用の捻出に頭を痛めている様です。これらの難しい作業をこなすため、市議会議員には市政府の仕組み、コミュニティ−の問題、地方自治法、議会制度の手続きや運営方法などの実用的な知識が要求されます。最善の市政府の実現はこれらに精通した知的で効率的な能力を持った市議会議員によって保証されると考えられています。毎週月曜日に行なわれる市議会の様子は市営のケ−ブルテレビのネットワ−クで、市内の多くの家庭にリアルタイムで放映されます。
6. 「委員会」
つぎに委員会(Commissions and Boards ) について少し説明してみたいと思います。ワイアンドットの「市長・市議会共同政体」という制度ではいくつかの委員会が、市憲章(Charter)の規定、または
市条例(Code of the City)により市政を補佐する目的で各々設置されています。そして委員会は大きく二種類のタイプに分類することが出来ます。ただし英語の
Commissions あるいは Boards はどちらも日本語で委員会と訳されますが、ふたつのどちらのタイプに属する委員会にも
Commissions あるいは Boards という名称が使われています。つまりCommissions あるいは Boardsはタイプによって付けられている訳ではありません。
ひとつのタイプはワイアンドット市の憲法とも言える市憲章(Charter) に基づき設置される委員会で各部局の職員(公務員)の監督と様々な事業、活動および財務についての報告書を市長と市議会に提出します。これらの委員会のメンバ−は市憲章によってワイアンドットの自由不動産保有者で、かつ有権者である者の中から選ぶ様に定められていて、市長が市議会の承認を得て任命しています。市憲章の規定により設置されている委員会には(電気や水道などの)公益事業委員会、評価委員会、警察消防委員会、リクリエ−ション委員会などがあります。このタイプの委員会は高い独立性を持っており、各委員会はその直属の部局長を市長と市議会の承認を得て任命します。また各委員会はその部局のスタッフの人事と給与、さらに事業計画、規則、購買などを独自に決定します。もうひとつのタイプの委員会は市条例や規則によって設置されていて、主なものは電気技師試験委員会、都市計画整備委員会、都市美化委員会、文化歴史委員会などがあります。委員の選出法は最初のタイプ同様、ワイアンドットの自由不動産保有者で、かつ有権者である者の中から普通3人から5人位選んで議会の承認を得て市長が任命します。
7. 「その他の選挙で選ばれる公務員」
つぎに市長と市議会議員以外に選挙で選ばれるポスト(いわゆる民選公務員)についお話します。これには財務官、税務査定官、事務官、ミシガン州第27地区裁判所判官の四つのポストあり、すでに少し述べたように市長や市議会議員と違ってすべてフルタイムで務めます。これらの四つのポストは、ひとりでその仕事をしている訳ではなく、もちろんその下にスタッフがいます。
a. 「財務官」
まず財務官(City Treasurer) について説明します。このポストは別名シティ−バンカ−(市の銀行員)とも呼ばれます。日本の収入役によくにていますが民選公務員であると言う所が違っています。つまり市長や市議会議員と同様に住民の選挙で選ばれます。財務官の仕事はワイアンドット市政府の市税のほかに学校区の学校税、ミシガン州のウエイン郡税の3種類の税金の徴収が主なものになります。財務官の部署では納税通知書を郵送して約1万6千件ある納税者からの税金を年2回受け取ります。その場合アメリカでは銀行振り込みや自動引落しが日本の様に一般化していないので、納税者はほとんどの場合チェック(小切手)を郵送するか直接市役所の窓口にチェックか現金を持参します。
財務官は、市に支払われるすべてのお金(またはチェック)を受領して、市の条例に定められた債務の支払を小切手の振り出しによって行なうという業務の総責任者です。受領した金銭は適正な勘定に計上して35ある銀行口座のいずれかに入金するので、財務官は銀行に何度も足を運びます。これらの口座は毎月決算し、すべての会計記録は毎年会計監査法人の公認会計士の監査を受けます。この様に財務官は市の資金や有価証券などを管理し、さらに市憲章により年金制度の財政責任者であり評価委員会のメンバ−も務めます。もちろんすべての市議会にも出席します。
b. 「税務査定官」
次に税務査定官(City Assessor)の仕事ですが、市内にあるすべての課税対象の動産と不動産の目録を作成して、個人の住宅用と商工業者の業務用の土地、建物、設備などを分類して課税の評価をします。任期は2年で選挙で選ばれます。ミシガン州の憲法と制定法、そしてワイアンドット市憲章によって税務査定官には動産、不動産の課税評価額を決める権限を与えられいます。また税務査定官の行なう個人の動産と不動産の評価は個人の財産税を決定する一つの大きな要素になります。課税対象は日本の固定資産税より広範なのでアメリカでは財産税と呼ばれています。この様に税務査定官の仕事は市の財政に広範な影響力を持っています。もちろん税務査定官もすべても市議会に出席します。
c. 「事務官」
三人目の事務官(City Clerk) の仕事は広範囲でいくつもあります。主な職務は、財産管理責任者としてすべての帳簿類、領収書、取引に関係する会計書類、さらに通信、契約、歳入、歳出、債務などに関わる一切の書類、資料、記録などを管理します。そして公債、市章(市や議会が発行する書類に貼るSeal)などの管理に加えて、市で行なわれるすべての選挙、つまり連邦、州、郡、市の選挙人登録と選挙管理の責任者としての職務もあります。また出生と死亡の記録統計についても責任を持っています。その上、市議会、市職員労働保険委員会、職員退職委員会などで書記も務めます。これらに加えて議会で行なわれる年間予算の審議のための準備や、年間を通じて行なわれる各部局の支出の月次報告の管理も事務官の重要な仕事です。市議会では事務官は毎回議事録作成人として議事進行や決議事項を記録します。
d. 「第27地区判事」
最後に紹介するのは正式名「ミシガン州第27地区裁判所 (District Court) 第一管区裁判官」通称27地区判事です。この裁判所のシステムはアメリカに固有なものなので、日本人にはなじみが無く少し分かりにくいかもしれません。もちろんこのポストにはミシガン州の法曹資格が要ります(アメリカでは法曹資格を連邦政府ではなく州政府が付与します)。ミシガン州には247の地区裁判所があり、その中のひとつの第27地区にあるふたつの管区の第一管区がワイアンドット市にある裁判所が管轄する管区です。地区裁判所の判事は管区の住民による直接選挙で選ばれて州知事が任命します。そして判事の給与は所轄の市から支払われます。つまりワイアンドットにある地区裁判所の判事の給与はワイアンドット市から支払われています。
8. 「ワイアンドットの地区裁判制度」
この第一管区の裁判所は他の近隣の市と同様に、ワイアンドット市内のWPD(Wyandotte Police Department:ワイアンドット市警察)と同じ建物の中にあります。ただしこの管区はワイアンドット市に加えて、南に隣接するリバ−ビュ−市の一部が含まれます。そしてこの地区裁判所は限られた範囲で民事、刑事の裁判権を有するいわゆる自治体裁判所(Municipal
court) で、1万ドル以下の民事事件と1年以下の懲役の刑事事件のみを取り扱います。さらに保釈金の受入れの認否、罪状認否の手続き、重罪事件の予備審理などがそこで行なわれます。
a.「訴訟の国アメリカ」
アメリカは「訴訟の国」と良く言われますが、それにはいくつかの理由や原因が考えられます。アメリカは他民族国家と言われる様に、いくつかの異なった民族が一緒に暮らして来ました。各々の民族には固有の文化があって、しばしば価値観、習慣、基準などの違いからから起こる単なる行き違いから対立になる事が多かったのでしょう。例をあげれば、日本人や黒人などは目上の人の目を見て話すのは失礼なので、目上の人と話をする時は相手の目を見ない習慣があります。ところが白人の場合、相手の目を見ないで話をするのは大変失礼な事だと言われています。こうした事からも「尊敬」「無礼」などの基準が違って来る訳です。そこで摩擦が起き易く何か起こった場合には、裁判でどちらの基準にも片寄らない公正な判断を求めて来た訳です。
またアメリカでは連邦法と州法が併存していますし、日本の制定法主義に対して、アメリカは判例法主義をとっているので膨大な判例数があり、法律の専門家も多くいる訳です。その上日本と違って訴訟費用が安い、つまり訴訟手続きのための収入印紙がないので日本の様に高額な印紙代が要らない。成功報酬で弁護士を雇う事が出来る。さらに懲罰的な慰謝料目当てに訴訟を起こす人も多くいますし、弁護士の数が多いなどの訴訟し易い条件もあって訴訟が非常に多いの訳です。例えば個人や数人のロ−・オフィスの「よろずや」の様な弁護士から何百人もの専門弁護士をかかえるロ−ファ−ムまであります。そして未だに移民する人が多いので、(日本で行政書士がやっている)移民関係の手続き業務を専門にやっている弁護士も沢山います。こんな事もあってアメリカでは日本と違った裁判所のシステムが出来上がりました。ただし、アメリカでは日本の行政書士、司法書士、税理士などが行なう業務も弁護士がやっていますので、必ずしも単純な日米の弁護士の数の比較はできません。
b.「民事的結婚式」
ここでひとつ日本人には珍しい制度を紹介します。それは結婚についてですが、裁判官には管内の住民の結婚に限り神父や牧師と同様に結婚証明書にサインをする資格があって、いわゆる「民事的結婚式」が裁判所内で行なわれます。日本の様に戸籍制度がないアメリカでは入籍すると言う制度はもちろんのこと、その概念すらありません。そこで多くのアメリカの州では、結婚したい人はまず郡(ワイアンドット市の場合ウエイン郡)の役所で所定の書類を記入し、費用を払って結婚ライセンスを取得します。しかし結婚ライセンスを取得しても結婚式を行なわないと婚姻関係が成立ないので、その後にその結婚ライセンスを持って州内の神父や牧師または判事(この三人は法律で結婚式を上げても良いと認可されている)に結婚式を上げてもらいます。裁判所で式を上げてもらう場合は判事に結婚ライセンスにサインをしてもらった後、サインのある結婚ライセンスを郡の登録所に郵送して登録が済んで始めて正式な婚姻関係が成立します。
c. 「地区裁判所のその他の役割」
これ以外の地区裁判所の仕事には差し押さえ、立ち退き、土地の譲渡契約などを扱うほか、「市民の裁判所」として1500ドルまでの少額請求民事訴訟を弁護士無しで扱っています。ただし、この訴訟当事者には控訴する権利は無く、この判事の決定が最終判決になります。この地区裁判所は「掘りのない砦」と呼ばれており、それはこの自治体裁判所としての利用し易さとともに、多くの人がこの裁判所を「当事者が同意に達しない時は、文明と理性の法則が対立をおさめる場としての公開討論の場」と見ているからです。事実、そうした考えから数多くの住民がここを訪れますし、さらに毎月平均40人程の住民がここで陪審員を務めます。その他交通キップに異議を申し立てたり、罰金や交通反則金などを支払いに多くの人が訪れます。少し古い資料で恐縮ですが、このワイアンドットの裁判所で1985年には九千件以上の民事事件の裁判が行なわれ、三千件を超える駐車違反(反則金)が処理されたそうです。このため判事の職はかなり忙しい様です。ところでこれらの交通反則金と罰金はワイアンドット市の歳入に加えられ、上に述べた様に判事の給与はワイアンドット市から支出されます。
例えば、ワイアンドット市内でスピ−ド違反でWPD(ワイアンドット市警)のおまわりさんに止められたとします。もしあなたがスピ−ド違反を認めれば、おまわりさんは違反キップを切ります。するとあなたは期限内(大抵10日間位)にWPDと同じ建物にある地区裁判所に行って反則金を会計窓口で支払う訳です。ワイアンドットの場合(ほかの所でも大体似てますが)、警察の会計窓口と裁判所の会計窓口は中央に警察の指令室をはさんで、同じロビ−の右と左にあります。もちろんその反則金はワイアンドット市の会計に入金されます。ちなみに、警察の会計窓口では事故証明書、銃の所持許可証などの書類申請費用などの会計がされます。
d. 「ミシガン州の警察制度」
ワイアンドット市のあるミシガン州では(他所の州も同様ですが)三種類の警察、すなわち州警察(State Police)、郡保安官(County
Sheriff)、WPD(ワイアンドット市警)などの市警察(City Police) のパトカ−が走っています。この他の法執行機関としては連邦国境警備パトロ−ル、FBI(連邦捜査局)、連邦保安官(Marshals
Services)、ATF(Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms:アルコ−ル・タバコ・小火器取り締り局)など数多くあり複雑になっています。
e. ワイアンドット市警察(WPD:Wyandotte Police Department)
日本と違ってワイアンドット市警察(WPD)はワイアンドット市政府が運営管理している警察です。WPDは警察消防委員会の管轄下にあり、委員会には委員長、副委員長、セクレタリ−の3人のポリス・コミッショナ−がいます。市警察局長(Police
Chief)の下に副警察局長(Deputy Police Chief)と司令(Commander)がいて総勢45名の小さな所帯です。刑事部、制服パトロ−ル部、記録文書部があり、(私服の)刑事部には防犯課がありその中に少年係などがあります。制服パトロ−ル部には交通安全課、コミュニティ−・サービス課などの部署があります。制服パトロ−ル部には交通安全課、コミュニティ−・サービス課、特別作戦課、防犯パトロ−ル課、動物管理課(以下で説明)などがあります。
コミュニティ−・サービス課ではコミュニティ−への防犯、非行防止などの広報活動を主な業務としています。例えば小学校で子供に麻薬の恐さを教育するプログラムを行なっています。主なプログラムにはD.A.R.E.(Drug Abuse Resistance Education)や奉仕団体のキワニス・クラブと共同でK.L.E.A.N.(Kiwanis and Law Enforcement Against Narcotics)の小学校オリンピックとよばれるものがあります。
特別作戦課は近隣の都市と共同で凶悪犯専門に対処するの特別編成チ−ム(Task Force)を作っています。主なものにはDRON(Downriver Organization of Narcotics Department)とよばれる特別編成チ−ムとDRMA(Downriver Mutual Aid)よばれる特別編成チ−ムがあります。DRONは麻薬、窃盗などを取り締る特別編成チ−ムで、DRMAは大規模災害、凶悪犯罪、大規模交通事故などに対処する特別編成チ−ムです。例えばDRMAには凶悪犯の逮捕などを担当する通称「スワット」(SWAT:Special Weapons Attack Team)とよばれる特殊任務警察部隊があります。ワイアンドットの様な比較的規模の小さな市では独自にスワットを持つ事は難しく、同じ様な規模の近隣の都市と共同でスワットを編成しています。このスワットは訓練はもちろん実際の活動も共同であたります。この共同スワットは特別編成チ−ムの主要な活動のひとつです。この様に特別編成チ−ムは警察活動の様々な分野で協力体制をとっています。
そのほか日本の警察には見られないワイアンドット市警察の活動に動物管理(Animal Control )の部署があります。Animal Control と書かれた専用のパトカ−(と言っても小型のトラック)で犬、ネコのほかシカ、アライグマ、ヘビなどの野生動物の管理をします。パトカ−の荷台には犬小屋くらいの大きさのカゴと捕獲道具が積んであり、保護した動物はワイアンドット市警察のうらに動物収用舎があり、そこへ一時的に収容します。インタビュ−に答えてくれた係官は「例えば庭にヘビがいて困る、近所に野良犬か迷い犬がうろついている、ネコが捨てられている、シカが道路にいて邪魔になるなどの通報で出動して保護します。」と結構忙しくしている様子でした。
交通安全課は日本の警察と同様、通常の交通事故処理、交通整理、交通違反取り締りなどをパトカ−や白バイで行ないます。車同士の人身事故の場合は、軽微な場合を除いてしばしばパトカ−、救急車、消防車のいわゆる「3点セット」が駆けつけてくれます。リリンサル市警察局長から聞いた話では、メ−カ−の好意でハ−レ−・バビットソン社の白バイを年300ドル位で借りていて毎年最新型と交換してくれるそうです。
蛇足もなりますが、わたしの経験ではスピ−ド違反の場合、市警察官によってスピ−ドの「割り引き」をしてもらえる場合がありました。ワイアンドット市の隣町での、トレントン市警のおまわりさんは15マイルオ−バ−のところ10マイルオ−バ−に「まけて」くれました。この時もらった交通違反切符には「実測15マイルオ−バ−のところ10マイルオ−バ−で速度違反」などと書き込まれていました。この時のパトカ−は対抗車線から走って来て、すれ違いながらスピ−ドガンで測りUタ−ンをして筆者の車を止めました。もちろん後ろからスピ−ドガンで測る方法もありますが、その他に道路の中央分離帯の切れ目や広めの路肩にパトカ−を止めて、走って来る車のスピ−ドを測り、追跡して停車させると言う取り締り方法も多く見られました。
もうひとつこれも個人的な経験ですが、ワイアンドット市近郊に住む様になって1ヶ月くらい経ったある時、子供を三人車に載せて一方通行をうっかり逆に入ってしまいパトカ−に止められました。しかし日本から来て間が無く道路事情にまだ慣れていない事を、まだ下手だった英語で説明をしたら許してくれました。そのときWPDのおまわりさんは「反則金を払ったと思って、子供達に何かおもちゃをかってやれば今回は許してやるよ」と言って、「アメリカのおまわりさんは粋だなぁ」と思いました。もちろんそんなおまわりさんばかりで無く、(『割り引き』のないので有名な)テ−ラ−市警のおまわりさんはこちらの言う事は一切聞いてくれなくて「問答無用」という感じでした。
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III. 「特殊目的の地方政府」(教育行政)
「特殊目的の地方政府」の形態をとるワイアンドット学校区(The School District of the City
of Wyandotte)は「一般目的の地方政府」であるワイアンドット市政府からまったく独立した行政府となっています。「学校区(The
School District)」と言う言葉自体が日本では全然馴染みがありませんが、ワイアンドット学校区は独立した教育体制をとって教科書、授業科目、カリキュラム、始業日、終業日、休日などを独自に決めています。ワイアンドット学校区の行政システムは教育委員会(Wyandotte
Board of Education)と学校局(Wyandotte Public School Administration)から構成されています。これ等のシステムは無論ワイアンドット市に特有な訳では無くアメリカではごく普通なものです。
1. アメリカの教育行政の特徴
a. 「学校教育の目的」
アメリカの学校教育の目的は「アメリカ国民の一人ひとりがそれぞれ一人の人間として成長する事が出来る様にする」と言う個人尊重の考え方がその基礎となっています。さらに「国民の一人ひとりが自らの特性や能力を発揮して、いかに社会に貢献するかを教える事」という目的もあります。
b. 「歴史的な背景」
アメリカの建国の歴史を見てみると、移住して来た人達が協力して土地を開拓して自らの生活を築いて来ました。そしてアメリカの教育制度はこうしたアメリカの歴史やアメリカ人の価値観に根ざしているという事が言えます。つまり移民によって集落が出来、そこの住民が中心になって教会や学校を建てて自分達のコミュニティ−をつくり上げて来ました。この様にアメリカでは学校はそのコミュニティ−の住民が協力してつくられて来たという歴史的背景があるます。またコミュニティ−を良くして行く事が良い教育環境につながると言う思想も根底にあります。
ところが実際には、その意識の強さは人によりまちまちで、その結果教育に熱心な住民が住む町とそうで無い町では、自ずと公的教育の予算の上で差が出てくることが見られます。さらに州政府からの補助金が生徒の出席日数によって算出される様になってから学校区間の差が顕著になり、必然的に特色があり魅力のある学校作りが重要になって来ています。また市政府もより教育に関心があり、経済的余裕のある人達を住民として町に呼び寄せる事が出来る様な魅力ある街づくりがますます重要になって来ました。こうした意味ではお互い独立して組織と言っても、市政府と学校区の協力が不可欠であると言えます。しかし現実にはなかなか難しい様です。事実、市民レベルの事業で我々友好市民の会が何かお願いしても、市政府と学校区の連携はなかなかスム−ズに行かないのが現状です。
c. 「教育の地方分権(Decentralized Education)」
いずれにしても住民が学校を作り上げて来たという歴史的背景があるため、とりわけ「地域住民が公立学校経営に参加する」と言う意識が強い訳です。さらにコミュニティ−を良くして行く事が良い教育環境につながると言う思想が根底にあります。こうした背景もあって、アメリカでは教育は連邦政府が管轄するのではなくほとんど地方に委ねられています。
こうした点は日本の文部科学省が各都道府県に対して基本的に行政上および運営上の監督は行なわないのと同様ですが、アメリカの教育行政の特徴は日本よりさらに地方自治体の独立性が強いと言う点です。教育行政は州ごとに決められ、連邦政府は各州とその州内の地方自治体に教育の大部分を委ねています。つまり連邦政府にはミシガン州に対する強制力はありません。こうした事から州は教育行政について大きな独立性を持っています。たとえばアメリカでは義務教育期間は、日本と違って学年ではなく年齢で州が独自に定めています。ミズリ−州など採用している州が一番多い期間は7才から16才です。オハイオ州などは6才から18才、バ−ジニア州などは5才から18才など州によりバラバラです。ちなみにミシガン州では6才から16才までが義務教育期間です。さらにミシガン州では州政府はワイアンドット学校区に援助や助言などはしますが、実際の学校運営は住民の意見が教育に広く反映される様に地域の実情をもっとも良く知っているワイアンドット学校区に委ねています。
d. 「教育制度を支える理念」
i. 公の教育は無料でなければならない。
ii. 公の教育はすべての国民に平等で、開かれていなければならない。
iii. 公の教育はいかな宗教や信条からも自由でかければならない。
iv. 公の教育は州政府と地方政府に委ねなければならない。
v. 保護者は学齢期の子供に義務教育を受けさせなければならない。
vii. 学校教育は基礎教育のみならず心身の成長を助け、各々の能力を最大限に伸ばせる場でなければならない。
2. ミシガン州の教育制度
他の州と同様ミシガン州では連邦政府の教育省(U S Department of Education)の下にミシガン州教育局(Michigan
State Department of Education)とミシガン州教育委員会(Michigan State Board
of Education)があります。しかし連邦政府の教育庁にはミシガン州教育局やミシガン州教育委員会に対してなんら教育統制などの権限がありません。連邦政府教育庁の主な役目は教育の基本方針を決めたり、学校ごとにESL(英語が主要言語で無い子供のための英語教育)やバイリンガル(ニ言語)教育などの特別プログラムや図書館などの施設建設の補助金の支給などに限られています。また日本の文部科学省と違って、連邦教育庁が検定で教科書を推薦したり学習指導要項を作ったりする事も一切ありません。
3. ワイアンドット学校区とその独立性
ワイアンドット学校区は連邦政府教育庁、ミシガン州教育局のゆるい管轄下にあり、ミシガン州にある87の郡のひとつであるウエイン郡にある35の自治体学校区のひとつです。そしてアメリカの教育行政の中で一番大きな権限を持っているのは自治体学校区なのです。ワイアンドット学校区は連邦政府教育庁、ミシガン州教育局から大きな独立性を保ちワイアンドット地区の教育行政に大きな裁量権を持っています。
事実ミシガン州政府はワイアンドット学校区に対して援助やアドバイスはしますが、実際の学校運営は地域住民の意見が広く反映される様に、地域の実情や需要を最も把握している学校区に委ねられています。もちろんワイアンドット市政府からも完全に独立した形です。こうした地区の独立性はアメリカは移民して来た人達が協力して自分達の生活を築いて来た歴史的な背景から来ています。基本的に教育についてもコミュニティ−を良くして行く事が教育の環境につながると考えられています。この様にアメリカでは公教育の運営は地域住民の意見や願いが直接反映される様に州と自治体に委ねられて来ました。
このため連邦政府の教育省はミシガン州の教育局に対して教育統制などの権限は持っていません。また連邦政府の教育省はもちろんの事ミシガン州教育局も教科書を検定したり推薦したり、あるいはカリキュラムを作成する事はなく、ワイアンドット学校区がこれらを決めます。この様に連邦政府の教育省やミシガン州教育局は基本的な教育目標を決めるのみで、一番大きな権限を持っているのは教育行政の最小単位であるワイアンドット学校区なのです。
4. ワイアンドット教育委員会
ワイアンドット教育委員会は日本の市教育委員会と違ってかなりの独自性と独立性を持った組織で、委員長(President)、副委員長(Vice
President)、財務担当理事、事務長、3名の評議員(Trustee)から構成され、学校区の住民の選挙によって選ばれます。委員長には普通博士号保持者がなります。選挙は各々4年の任期満了の年の6月の第2月曜日に行なわれます。立候補者(被選挙権者)は学校区内に不動産を所有して財産税(日本の固定資産税に相当)を払っている21才以上のアメリカ市民である事が要件になっています。一方選挙権は選挙日の30日以上前から学校区に住んでいる21才以上のアメリカ市民に与えられています。
ワイアンドット教育委員会の定例委員会は毎月第1と第3火曜日の午後7時30分から市役所の市議会議場で開催され様々な事柄が審議されます。たとえば学校区の政策や運営規則の作成、学校局の責任者である委員長の任命、委員長の推薦する教職員採用の承認などが決定されます。その他学校区の教育制度の安定確保、学校の度の建物の建設や一般カリキュラムの協議と決定などを行ないます。また特別委員会は決定すべき事柄が緊急に起こった時、その都度開催されます。ワイアンドット教育委員会の使命は「すべての生徒が目的意識を持った学習者となる様、また自分自身のみならず地域社会に有益な目標を持ち、またそれが達成出来る様な勤勉で、何ごとにも積極的に参加する、心優しき市民になる様に教育する事である」と決められています。
5. ワイアンドット公立学校局と教育長の職務
学校局の事務所はオ−ク道りにあり、教育長と予算、人事、教育計画、総務など教育活動の専門家である教育長のアシスタントが学校区内の学校や訓練センタ−の実質的運営にあたっています。ワイアンドットの公立学校教育の有効な教育評価指導権は唯一学校局、すなわち教育長とそのアシスタント達の管轄下にあります。教育長は委員長と同様に教育学博士号保持者がなり、教育委員会の作った政策を忠実に実行して行きます。たとえば学校の改善についての計画を作成したり、それを教育委員会に勧告したりします。また各学校職員のいろいろな取り組みをコ−ディネ−トする責任や継続的な学校の改善についての責任を持っています。教育長のアシスタントには人事政策担当ディレクタ−、事務長、運営ディレクタ−、運営ス−パ−バイザ−などがいます。各学校長は教育長の指示によりそれぞれの学校運営をして行きます。もちろん学校行政についてワイアンドット市長と言えども一切口出しが出来ません。
6. 「学校税」
ワイアンドット学校区は他の州の学校区と同様に、財源のほとんどが州からの補助金と地域住民からの税金でまかなわれてます。ミシガン州では教育費の約半分は学校区内の住民の(日本の固定資産税に相当する住宅の財産税評価額を基準に住民投票で決められた税額)税金で賄われています。すでに説明した様に学校区の税金は、便宜上ワイアンドット市政府が徴収しています。しかし市長と言えども市政府は学校区の行政に対して一切権限を持っていません。
ワイアンドットの公立学校を運営して言うための税金の徴収はミシガン州の憲法に決められています。そしてその他の学校運営に要する税については必要に応じて州法を制定したり住民投票で決められます。地域住民からの税金についてもう少し具体的に説明すると、学校税は財産税のひとつとして市政府により徴集されます。そのプロセスは、市の予算委員会が学校税の財産税に占める割合いを決めます。そして住民は追加の割合いは5年ごとに投票で決められます。学校税率は市政府の税務査定官の資産評価レポ−トを参考に決められた後に市議会に提出され、さらに市議会は税務査定官に住民への税の徴収準備を指示します。そして学校区の必要な予算は教育委員会と教育長が決めて公立学校を運営していきます。
7. ワイアンドットの公立学校
ワイアンドット学校局はガ−フィル小学校、ジェファ−ソン小学校、ワシントン小学校、モンロ−小学校、マッキンレー小学校、タフツ小学校の六つの小学校の他にウィルソン中学校、ル−ズベルト高等学校、ワイアンドット・プリスク−ル(保育園)、さらにマジソン地域障害者訓練センタ−、リンカ−ン知的傷害特別擁護センタ−(8から26才)、ジョ−・ブライトン障害者能力開発センタ−(15から26才)の運営責任を持っています。
ミシガン州ではキンダ−ガ−テン(小学校の中にある小学1年生の前の学年で、小学1年生になる準備をする学年で日本の幼稚園とは少し違う)から12年生(日本の高校3年生にあたる)までの子供や障害者教育の公的教育は無料です。越境通学も自由で、もし越境して他の学校区へ行く場合はその子供が住んでいる学校区はその費用をその子供が通う学校区に相当金額を支払わなければなりません。これは需要と供給と言う競争原理を導入して教育水準を上げる事をねらい、より良い学校区に生徒が集まり、そうで無い学校区は淘汰されて行くというシステムとして1990年代中頃導入されました。事実、現在ワイアンドットのウィルソン中学生には隣のエコ−ス市から生徒を何人か受け入れています。
■教頭、校長、教育委員長、教育長の資格■
ワイアンドットの小学校には校長がいるのみで教頭はいません。またウィルソン中学には校長のほかに教頭がひとりいますが、ル−ズベルト高校には校長のほかにふたりの教頭がいます。普通、校長や教頭は学校運営の教育学修士号を持っています。また、すでに述べた様に教育委員会の委員長と学校局の責任者である教育長は博士号を持っています。そして各校長には秘書が一人ずつついていて校長を補助します。ワイアンドットの校長は日本の校長に比べると、ずっと強力で広範な権限を持っている様です。
■学区制■
ところでワイアンドットの小学校では学区制がなく、保護者は好きな小学校を選んで入学願書を出す事が出来ます。そして小学校は入学希望者数や空き状況によって子供の入学を許可します。現在、予算の関係でスク−ルバスの運行を停止しているので、保護者は送り迎えをするのに容易な地域の小学校を選んだり、学校や教師の善し悪しで選んでいると思われます。ここでも競争の原理が導入されていて、評判の良い小学校には希望者が多い様です。またこのほか州法に基づき他の学校区(都市)からの生徒もくじ引きで限られた人数だけ受け入れています。
■学年制■
ワイアンドット学校区を含むミシガン州では義務教育期間を学年ではなく年齢で決めます。つまり6才から16才までが義務教育期間で、学年は通常子供の誕生日によって決められます。12月2日から翌年の12月1日までに生まれた子供が同じ学年になります。学年を決めるに当たって子供の学力や社会的な成熟度考慮されることがあります。保護者は学年の決定に当たり校長やカウンセラ−に相談出来、かなり融通がききます。例えば日本などから英語がまだ出来ない生徒で低い学年で始めても、学力がついたと認められた時点で本来の学年に戻されます。キンダ−ガ−テンから6年生までが6校ある小学校の何れかへ、7年生と8年生がウィルソン中学校へ、また9年生から12年生までがル−ズベルト高校へ通っています。
6才から16才までが義務教育ですが大概の保護者は子供が5才になると8月から公立学校に通わせます。キンダ−ガ−テンは日本の幼稚園と違い公立学校の第一段階、最初の学年です。通常午前か午後の半日だけ登校します。キンダ−ガ−テンでは子供達が学校に適応して集団生活に慣れる様に協調性を身につける事を目的としています。国語(英語)、算数、その他の科目の準備段階となる様な事を指導します。
さきに説明した様に、学年と言う概念はかなり柔軟で、例えば算数などでは出来る生徒は上の学年のクラスを受ける様にさせてもらえます。また保護者と学校側との話し合いでいわゆる飛び級もしばしば行なわれます。さらに高校では早期卒業制度があり生徒はサマ−.スク−ルで単位を取ったりや学期の取得単位数を増やす事によって10年生で卒業する生徒が多くいます。この他にも日本では見られない制度が多く見られます。そのひとつにスプリット・クラスがあります。これはアメリカでは学年ごとの生徒数が足りない時にしばしば行なわれる制度で、2学年をひとつのクラスとして生徒を一緒に勉強させるシステムです。通常上の学年には成績の良い生徒が選ばれます。
■複合年齢編成クラス■
例えばマッキンレ−小学校では複合年齢編成クラス(Multiage classes)が行なわれており、全学年がスプリット・クラスです。この小学校は「魅力的なテ−マ小学校(Magnetic-theme
elementary school)」に指定校されており、複合年齢編成クラスの他に延長学年制、保護者ボランティア制、中核となる科目を立てて他の科目をこれに関連統合する教科課程であるコアカリキュラムを教えるための多重的知能の利用などが実施されています。複合年齢編成クラスでは上の学年の生徒が下の学年の生徒の勉強などの面倒を見る事で、上の学年の生徒は学力だけで無く、社会性や指導力なども身につけると言われています。保護者の中にはこのスプリット・クラスで勉強させ様と、マッキンレ−小学校へ(越境)入学を希望するが多くいます。
■補習教育■
さらに補習教育(Compensatory Education)も行なわています。国語(英語の読み)、算数、社会、理科などの主要科目の基礎学力の不足を補う教育です。この教育は授業時間内に生徒は適宜連れ出されてリソ−ス・センタ−と呼ばれる教室で行なわれます。キンダ−ガ−テンから9年生(日本の中学3年生)までの生徒を対象に行なわれます。しかし最近では総合教育のメリットも高く評価されつつあり、出来るだけ才能教育や特殊教育の生徒にも出来る限り普通クラスで一般の生徒と一緒に勉強させる事が奨励されている様で、個々の要求に合った指導は週に1日または数時間に制限する様になって来ました。
■ウィルソン中学校とル−ズベルト高校■
つぎに中学校と高校についてもう少し詳しく説明します。ワイアンドットには現在公立のウィルソン中学校やル−ズベルト高校の1校ずつしかありません。(以前あったリンカ−ン中学校は、現在リンカ−ン知的傷害特別擁護センタ−になっています。)ウィルソン中学校やル−ズベルト高校で生徒は、大学の様に必須科目と選択科目からクラスをカウンセラ−のアドバイスを基に選びます。そして日本の様にホ−ムル−ムでつぎの授業を待つという事は無く、それぞれ生徒はその選んだクラスに毎時限行って授業を受けます。生徒はその他個人的な問題や進路、就職、大学進学などをカウンセラ−に相談します。この様に中学や高校でカウンセラ−は重要な役割を果たします。またミシガン州では16才から自動車運転免許証が取得出来るので、多くの高校生が駐車許可証を学校からもらって自動車(ほとんどが古い車)で通学しています。もちろんル−ズベルト高校には大きな駐車場があり、こうした点などは日本とまったく違いますね。
■学級内習熟度グル−プ指導■
また多くの小学校では Grouping/Tracking/Streaming とよばれる[習熟度グル−プ指導]を行なっています。これは学級内の生徒を習熟度の応じていくつかのグル−プに分けて指導して行きます。小学校のリ−ディングの例では、生徒は日本の様に同じ教科書を使うのでは無く生徒の読解力に応じた教科書を読ませます。教室にいくつかのレベルの教科書が置いてあり、生徒は各々の進み具合によって上のレベルへ進んで行きます。さらに発音が正しく出来ない生徒の為にスピ−チ・セラピストと呼ばれる発音矯正専門の教師がいます。
■習熟度別指導■
中学校や高校でも普通授業のほかに、学習進度の遅い生徒や速い生徒を対象に内容を簡単にしたクラスや高レベルのクラス(Honors/Accelerated
Class)を設置して科目ごとに習熟度別指導を行なっています。高校ではAPクラス(Advanced Placement Class)とよばれる大学レベルのクラスも受けられる様にしています。アメリカではAからFまでで採点され、通常4段階で成績が付けられ最高のAが4になっています。ところがこのAPクラスの場合最高のAが4.5になっており、GPA(Grade-point
Average:平均点)が上がります。
余談ですが、GPAが低いとバスケットボ−ル、フットボ−ル、野球などの課外活動に参加さてくれませんし、GPAは高校の累計の平均点で大学入試の際に大変重要となります。現在ワイアンドットのAPクラスには英語、政治学、アメリカ史、有機化学、物理学、微生物学、スペイン語、フランス語、微積分学があります。このAPクラスには学年末に全国統一試験があり、これに合格すると認定単位がもらえ大学に進学した時に大学は取得単位に加えてくれます。また高校で成績優秀者は、大学の授業が受けられ大学の単位と高校の単位が同時に取得出来る様になっています。稀に高校と大学を同時に卒業する者もいます。
■バイリンガル教育とESL教育■
英語力が不足している生徒はLEP 生徒( Limited English Proficient Student)と呼ばれ、アメリカのどの州でもこれ等の生徒がいればESL(
第2言語としての英語:English as a second language)教育プログラムが行なわれ、一方同じ主要言語を使うLEP
生徒が20名以上いればバイリンガル教育( Bilingual education)が施されます。
●バイリンガル教育
バイリンガル教育は英語で授業を行なう事を基本としていますが、基礎科目の指導に英語と生徒の主要言語(常用語、第1言語あるいは母国語)の2か国語あるいは2言語を使用すると言う方法を取ります。1965年連邦政府が英語を常用語としない生徒に援助を行なったのがきっかけです。1968年には
バイリンガル教育条例が制定され1974年にバイリンガル教育が義務化されました。
ミシガン州でも1976年にバイリンガル教育の州法が制定され、一学区内のキンダ−ガ−テン(小学1年の前の学年)から12年(高校3年)までの生徒の中に、英語以外の同じ言語を主要言語としていて標準英語テストの成績で40%以下の生徒が20人以上いる場合、バイリンガル教育を行なわなければならないと規定されています。例えば一学区内のキンダ−ガ−テンから12年までに、標準英語テストの成績が40%以下の日本人あるいはアメリカ国籍を持っていても日本語を第1言語とする(注:アメリカは属地主義をとっており、アメリカで生まれた子供には原則的に不法滞在者であれアメリカ国籍が与えられます)生徒が20人以上いる場合、バイリンガル教育を提供しなければならないとミシガン州の法律では規定しています。
●バイリンガル教育の指導法
1. Maintenance :すべての科目を2言語で教える方法。
2. Transitional :英語で行なわれる授業についていける様になる迄、主要言語で助けながら教える方法。
バイリンガル教育の費用は主に連邦政府と州政府が負担します。人数が少ない場合、回数は減りますがESL教育の授業が行なわれる場合があります。
●ESL教育
ESL教育はふつう国語( Language Art または English)の授業と見なされるので、その費用は学校区が負担します。バイリンガル教育とESL教育の違いは簡単に言うと、バイリンガル教育では教科を英語と生徒の主要言語の両方で指導し、ESL教育では英語のみで教えます。前述の様にESL教育プログラムはこのほか英語を母語としていても、英語力が不足している生徒にも提供されます。
そしてバイリンガル教育もESL教育も共に専任の教師が常駐して専用の教室を用意している所もあれば、学校区全体を担当する教師が必要に応じて各学校を巡回する場合と、ESL教育またはバイリンガル教育のクラスのある学校へスク−ルバスで送迎して授業を受けさせる場合があります。さらにバイリンガル教育では Pull-out と呼ばれる生徒を正規の授業(通常得意な科目)から適宜連れ出す方法とバイリンガル教師またはアシスタント(Tutor または Paraprofessional)が正規のクラスに生徒と一緒に出て手伝う方法もあります。バイリンガル教師は自身も対象言語と英語が話せるだけでなく読み書きも出来る2言語使用者( Bilingual and Biliterate )でバイリンガル教育の訓練を受けた専門家です。一方ESL教師には「第2言語としての英語教授法(TEOSL :Teaching of English to Speakers of Other Languages )」や言語学などを勉強した人がなります。
■コミュニティ−教育事業■
その他の珍しい制度には、学校区のコミュニティ−事業部の「ラッチキ−(掛け金の鍵)」という低学年用の便利な制度があります。ワイアンドットの場合ワイアンドットYMCAなどと契約して、小学校の校舎内で授業の前後に生徒の世話や監督をしたり、ナ−サリ−やプリスク−ルと呼ばれている保育業務が有料(ただし一定の所得以下の家庭は無料)で提供されています。子供が小学校の授業が終わっても引き続きそこで面倒を見てもらえるので、共働きの家庭やシングル・マザ−の保護者には非常に便利な制度です。この様なサ−ビスはワイアンドット以外でも、大概の学校区で提供されています。
学校区のコミュニティ−事業部ではこの他にもコミュニティ−の住民のためのクラスを催しています。無料のクラスでは新しくアメリカに移民して来た人のために英語のクラスがあります。また有料ですが非常に安価に様々なクラスを提供しています。例えば職業訓練のためのクラス、西洋流生け花、ダンス、料理、クラフト、ア−ト、水泳、投資、コンピュ−タ−、スケ−ト、空手、ボ−ト、エアロビックスなどのクラスがあります。それほか日本には無いものとして、高校を途中退学した人が卒業単位を取るためのクラスがあります。このクラスで必要単位数を取得すれば高校の卒業資格が得られます。
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VI. 私立学校
ワイアンドットには以上の様な無料の公立学校のほかに、キリスト教会付属の私立学校(parochial school)があります。保育園と幼稚園が4校、小学校1年から4年迄の学校が1校、幼稚園から中学校(8年)迄の学校が1校、小学校から高校迄の学校が1校それぞれあり、運営母体の教会の信者には授業料の割り引きがあります。
税収不足による公立学校の質の低下を危惧する保護者は、しばしばこうした教会付属の私立学校に子供を入学させます。1980年代末から1990年代はじめのアメリカ経済の停滞時期にワイアンドットを含む全米の数多くの学校区では音楽、美術などの授業を取り止めました。そしてそれにともない多くの教師が解雇されたり、スク−ルバスの運行回数が削減されたりしました。当時わたしはワイアンドット市近郊に住んでいましたが、知り合いの教師が何人も職を失いました。ワイアンドットではスク−ルバスが最終的に運行中止になり、現在に至っています。ところで、ワイアンドット学校区は公立学校のみに運営責任があり、私立学校は当然管轄外です。
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